伝統にフォーカス! クイーンとのコラボバティック
11月1日~7日、今年で第9回目となるマレーシアのファッションの祭典「KLFW2021」(KLファッションウィーク)が、リアル&バーチャルに開催されました。
昨年3月に始まった移動制限を受け、自己を表現するための衣服が不要不急となったことを受け、もっとも深刻な打撃を受けた産業のひとつであるファッション業界。
今年のKLFWは、人々を再びファッションへと回帰させるための期待の星として、例年以上の注目を集めました。
さて、華やかに繰り広げられるランウェイが祭典の中心と思われがちですが、KLFW創設者であるアンドルー・タン氏は、マレーシアの豊かで多彩なテキスタイルに対する認識を周知させ、そのユニークな美しさと歴史をより深く理解してもらうことを、祭典の目的の1つとしています。
今回の特筆すべき取り組みは、「伝承の糸」をテーマに、バティックにフォーカスしたビッグプロジェクト。
現マレーシア女王陛下自らがデザインし、国産メーカーが1枚1枚手作業で製作したバティック生地を、Saito大学、First City大学、Lim Kok Wing大学、USCI大学でデザインを学ぶ学生らが、見事なドレスに仕上げました。
11月3日~21日まで、パビリオン3階で展示されているこれらドレス制作の舞台裏をご紹介しましょう。
生地が学生たちの手元に届いたのは、予定から大幅に遅れた展示会2日前。色も、柄も選ぶことは許されず、彼らは与えられた生地で最善を尽くすことが求められていました。
また、生地は元通りにして陛下へお返しすることが条件となっていたため、鋏を入れることも、ミシンを用いることもできず、手縫いとピン留めのみでの制作が求められていたそうです。
中には、4メートル生地が届く予定が2メートル分しか届かなかったケースもあったとか。
想定外の事態の影響は、学生のみならず、指導講師や、最終的な監修を任せられたアンドルー氏自身にも及びました。
この道30年、世界に誇るデザイナーを輩出し、当プロジェクトの指導を任されていたメリーナ・ライ氏は、丸2日間、本業である大学の授業をすべて休講とし、4校すべての学生へのアドバイスに奔走せざるを得なかったとのこと。
またアンドルー氏は、展示会初日に日付が変わったころから会場に届き始めた作品をつぶさにチェック。
各人にアドバイスやデザイン修正指示を与え、その指導は午前4時まで続いたそうです。
そこから学生らは、糸をほどいて縫い直すなどの対応をねじり鉢巻きで続け、ようやく開会にこぎつけたのでした。
関係者一同による不眠不休の3日間の末、「伝承の糸」展示会は、陛下の到着とともに、華々しくスタート。
手を胸に当て、凛とした面持ちで陛下をお迎えするメリーナ先生、達成感を隠し切れない学生たちの晴れやかな笑顔が印象的でした。
「バティック生地は非常に柔らかく、立体性を持たせるのは困難を極めました」とは、すべての学生さんから異口同音に発せられた言葉。
また、「あのアンドルー氏から褒められたことが大きな自信に繋がりました」、「卒業後はデザインビジネスを展開したい」、「イギリスで修行したい」など、未来への希望も多く語られました。
コロナをものともせず、イベントを成功させた学生達。未来に大いに羽ばたいてほしいものです。