ムヒディン首相が退陣したことで、今後は次期首相に焦点が移る。しかし、次期首相も連立相手次第では過半数ぎりぎりで運営せねばならず、次期下院総選挙が実施されるまで短命政権となる可能性がある。
アブドゥラ国王は「選挙区の多くがレッド・ゾーンであるため、総選挙はすぐには実施できない」と明言。現状の下院の勢力のなかで首相を選出させることにし、次期首相が指名されるまで暫定首相としてムヒディン氏を任命した。
現在まで次期首相として統一マレー人国民組織(UMNO)副総裁のイスマイル・サブリ前副首相(61)やUMNOの重鎮トゥンク・ラザレー氏(84)を推す声が上がっている。政治評論家らは「UMNOのザヒド総裁は自身の汚職容疑の裁判があるため、首相にはなれない」と意見が一致しており、本人も立候補はしないと述べている。
今後はUMNOが中心になって次期首相を選出させるとみられる。
マレー人中心のUMNOは下院内で第2党として38議席をもつが、ムヒディン政権への支持撤回を同総裁が主張したときにUMNO議員の多くがこれに従わなかった。ナジブ元首相派の同総裁に対しては、「信用できない」(カイリ・ジャマルディン前科学技術・イノベーション相)との声も挙がり、場合によっては党内が分裂する可能性もある。同総裁が推さない人物が首相に選出した場合、再び今回と同様の事態になりかねない。
UMNOが中心となってムヒディン政権で与党だった全政党を含めて新政権を成立させても下院定数222人のうち115議席にしかならない。これでは現状維持の不安定な状況で政権を運営することになり、次期首相もこれを望まないだろう。
また、ムヒディン前首相が党首であるプリブミ統一党(議席数は31議席)が
今回の一件ですんなりと次期政権に参加するかどうかも不透明で、下院で過半数を確保するのは容易でない。
UMNOが中心となって組閣をするのであれば、野党の取り込みが急務となる。しかし、野党を取り込むことはさらに大変な作業だろう。野党の希望同盟(PH)は人民正義党(PKR)のアンワル・イブラヒム総裁を推す声でほぼ一致している。ただ、PH内は下院内最大勢力の42議席を誇る華人中心の民主行動党(DAP)の存在が大きい。PKRは2018年の選挙で47議席を確保して第1党となったものの、その後は離党者が続出したため、下院では現在第3党に転じている。
UMNOやイスラム国家の創設を党是とする全マレーシア・イスラム党(18議席)はこれまでDAPを敵対視してきた。歴史的に犬猿の仲であり、イデオロギーも180度の違いがある。そのため、UMNO側はPKRを取り込む可能性があるが、UMNO内にはアンワル総裁を嫌悪するグループもおり、党内がまとまらない可能性もある。
UMNOのザヒド総裁は「感染防止と国家の復興に集中した内閣にさせたい」と次期政権が暫定的な内閣となるとも指摘し、パンデミックが収束した場合は総選挙を実施させたい考えを16日に示した。
次期政権が短命であるとしても、下院第1党のDAPを抜きにして安定した政権が成り立つのだろうか。マレー人と華人の対立といった構造も生まれかねず、マレーシア政治は再び袋小路に入り込んで可能性がある。
下院での勢力図- 8月16日まで与党
国民連盟(PN)グループ(51) |
人数 |
プリブミ統一党 |
31 |
全マレーシア・イスラム党(PAS) |
18 |
故郷団結党(STAR) |
1 |
サバ統一党(PBS) |
1 |
国民戦線(BN)グループ(42) |
人数 |
統一マレー人国民組織(UMNO) |
38 |
マレーシア華人協会(MCA) |
1 |
マレーシアインド人会議(MIC) |
2 |
サバ州民統一党(PBRS) |
1 |
サラワク政党連盟(GPS)グループ(18) |
人数 |
統一ブミプトラ遺産党(PBB) |
13 |
サラワク州民党(PRS) |
2 |
民主進歩党(PDP) |
2 |
サラワク統一国民党(SUPP) |
1 |
- 8月16日まで野党
希望同盟(PH)グループ(88) |
人数 |
民主行動党(DAP) |
42 |
人民正義党(PKR) |
35 |
国民信託党(Amanah) |
11 |
その他 |
人数 |
遺産党 |
8 |
闘争党 |
4 |
キナバル前進統一組織(Upko) |
1 |
自由(べバス) |
2 |
統一サラワク党(PSB) |
2 |